テニスの全米オープン女子決勝が昨日、そして男子決勝が今日米国で行われた。
女子決勝では大坂なおみが1stセットをミスの連発で取られながらも2ndセットの3ゲーム目(サーブ)から立ち直り、1-1のイーブンに持ち込むとともに3rdセットではそのままの勢いで地力の差を見せつけ優勝した。
一方、男子はビッグ3と云われるナダル、フェデラーがコロナ禍などのリスクを考慮して棄権し、もう一人のジョコビッチがマナー違反(何気なく後ろに打ったボールが女性審判の首付近に当たり、その審判が椅子から崩れ落ちた)で退場となる波乱の大会となった。
そして決勝に上り詰めたのはビッグ3の次を担う世代と自他ともに認めるズベレフとティエム。ズベレフは恵まれた体(長身)と安定したストローク、そしてネットにも出る多彩なプレー。ビッグサーブも含め、文句のない才能の持ち主だ。
一方のティエムも幾度となくビッグ3の一角を倒し、これまで3度4大トーナメントのファイナルに進みながら、決勝で惜しくも涙を呑んできた歴戦の強者だ。ここ一番の強気のストロークは見る者を魅了する。
この二人の決勝が勝負のアヤを見せつけ、多くのアスリートに繰り返された教訓を今回も示した。ズベレフは好調な立ち上がりを見せ、5セットマッチの内の2セットを最初に取った。楽勝の展開だ。しかし、ここからティエムが巻き返し2-2となってのファイナルセット。
既にティエムは右足太ももに痛みを感じ、足を気にし、最後には引きずってさえいた。最初に5ゲームを先取し、サーブ権を得たのはズベレフ。ゲームカウントは5-3であり、このサーブをキープするとチャンピオンだ。男子プロの通常の試合ではサーブをキープすることがゲーム運びの前提であり、サーブゲームを勝つと「キープ」負けると「ブレーク」と云われるもの。
当然、最大のチャンスだがこのゲームでズベレフのハートに何かが起きた。サーブは僅かずつ外れ、ストロークは減速し、ネットプレーは甘い返球になりゲームを落とした。一方のティエムは左右に振られ、追い込まれながらも渾身のショットがラインの僅か内側に落ちるミラクルショットを大事な場面で決め、テレビ桟敷を驚かす。
ゲームカウント5-4になったあともそれぞれブレークとキープを重ね6-6となり、タイブレーク。ここでもズベレフにチャンスはあったがことごとくティエムが跳ね返し、4度目の4大大会ファイナルで栄冠を掌中に収めた。
コート上でのセレモニーは敗者にとっていつも厳しい。敗者もまた毅然とし、勝者をたたえ、大会の運営を称え、チームや家族に感謝するというスピーチをこなさなければならないのだ。今回、4大大会のファイナルに初めて進み、そして敗者としてスピーチする羽目になったズベレフは両親に感謝する場面で言葉にならなかった。
敗因は分かっている。栄冠が見えたときのメンタルであり、戦う気持ち。悲しみにくれてコートを去るズベレフはこの教訓を誰よりも深く胸に刻み、次からコートに立ち続けるだろう。それは今回、4度目の挑戦で戴冠した目の前の親友でありライバルであるティエムが身をもって見せてくれたものでもある。